東院堂のほとけさま

 

聖観音菩薩像 ある時は優しく、ある時は厳しく、耳に聞こえない音や目に見えないもの、例えば私たちの悩みや苦しみや悶えなど、心の中は心の目を開かねば見ることができません。この心の目で見ることを「観」といいます。色なき色を見、音なき音を聴く、これが「観」です。この観の働きをもって私達の悩みや苦しみや悶えをお救い下さるのが観音様です。ある時はやさしい姿で、ある時は厳しい姿で真理の世界、信仰の世界へ導こうとして下さる慈悲の心です。

 東院堂に入り、板敷に座して仰ぎ見る時、永遠の美しさと優しさを感じ心洗われる思いがします。祈りが昇華していく崇高なお姿そのままです。現在、黒漆の大形厨子に納めて、堂内中央に安置される聖観音像は、草創以来の東院堂のご本尊像と考えられるものです。

 丈の高いのびやかな姿の聖観音は、右手を静かに下げ、左手は挙げて蓮茎をつまむポーズをとりながら、胸を張り、両足を正しく揃えて、いかにも万葉の貴公子を思わせる、さわやかな容相で蓮花座上に立っておられます。頭体の比例が見事に均衡した、輝くような尊容はそのまま彫像美の理想とされるもので、金堂薬師三尊と双壁をなす古典彫像の代表的名作とも言われています。

 弾力を備えた若々しい肉体の張り肉付けの柔かな感触は、まるで血が通っていると思われるほどに生彩があります。特に両胸の広く豊かな隆まりを腹部で強くしぼり再び腰にかけてしなやかな張りをもたせて行く体躯の輪郭線は、人体比例の白然の美しさを理想的に高めてそれを彫像化したもので、いかにもあふれんばかりの生命感を感じさせられます。

 東院堂の本尊聖観世音菩薩の厨子をとり囲むかたちで安置される一具の四天王像。いずれも桧材による寄木造りの像で、玉眼を嵌入する。彩色は盛り上げ手法をまじえた濃密なもので、裁金文様や繧綱彩色文様も多く併用されています。そのうち持国天は肉身は緑色で、開口憤怒の相を示し、右手を大きく振り上げて三鈷杵を構え、左手は腰に当てています。足下には焔髪を乱した邪鬼が両足を屈伸させ、苦し気に口を開いた柵で横たわっています。

 持国天とは対照的な体勢をとる増長天は肉身を朱色で彩色されています。竜頭をあらわした帯喰の形式や、獅子頭の沓など服制の細部に珍しい特徴がみられます。

 広目天は肉身が肌色で、両手はそれぞれ巻物と筆を執り、腰を左にひねって立っています。多聞天は広目天に対応する形で腰を右にひねり、右子に宝塔、左手に宝棒を構えた姿につくられ、肉身は群青に色取られています。四天王それぞれの持物や体勢のつくり方、また獅師や竜をあらわした特徴的な帯喰の形式、岩座上の邪鬼を踏む姿、あるいは肉身を緑・朱・白・青にぬり分けるなどの特色は鎌倉時代以降の四天王像に多くの類例をみることができます。また一方、大形で誇張的な衣の翻りや邪鬼の形態の表現、盛り上げ手法をまじえた彩色なども鎌倉後期の特色を示しています。

 

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